下肢静脈瘤の日帰り手術について

このページの監修:
お茶の水血管外科クリニック 院長 広川 雅之 先生

1. 3つの日帰り手術

下肢静脈瘤の日帰り手術には「しばる」・「引き抜く」・「焼く」3種類の手術があります。しばる手術は「高位結紮術(こういけっさつじゅつ)」、引き抜く手術は「ストリッピング手術」、焼く手術は「血管内焼灼術(けっかんないしょうしゃくじゅつ)」と言います。血管内焼灼術にはレーザー治療と高周波(ラジオ波)治療があります。いずれも伏在型(ふくざいがた)静脈瘤という比較的進行した静脈瘤が対象となります。

手術の種類 手術名 日帰り手術 治療効果 身体への負担
しばる 高位結紮術 ×~△
引き抜く ストリッピング手術 ×~○ ×~○
焼く 血管内焼灼術
(レーザー・ラジオ波)

表1. 下肢静脈瘤の日帰り手術

2. 日帰り手術の歴史

日本の下肢静脈瘤の日帰り手術は1990年頃すでに始まっています1)。最初は高位結紮術や硬化療法を同時に行う「(高位)結紮併用硬化療法」2)が主流でしたが、再発が多いことが問題となりました。そのため、1997年頃からより治療効果の高いストリッピング手術が日帰りで行われるようになりました3)。しかし、日帰りストリッピング手術はあまり普及せず、ごく限られた専門の病院でのみ行われていました4,5)

大きな転機となったのは2011年にレーザー治療が保険診療になったことです。レーザー治療は局所麻酔だけで行うことができ日帰り手術に適していたため、一気に日帰り手術が日本中に普及しました。その後、同じ血管内治療のラジオ波治療も保険診療となり、2016年には3種類のレーザーとラジオ波治療が保険診療で行えるようになっています。今ではほとんどの日帰り手術がレーザー治療かラジオ波治療となっています。

3. 足のつけ根でしばる「高位結紮術」

高位結紮術

図1. 高位結紮術

日帰り手術が始まった頃の手術方法はほとんどが高位結紮術でした。「結紮(けっさつ)」とは「糸でしばる」という意味で、「高位」とは下肢静脈瘤の原因となる最も高い位置である足のつけ根(鼠径部(そけいぶ))のことです。下肢静脈瘤は足のつけ根の静脈で血液が逆流することによっておこるので、その逆流を糸でしばって止めてしまう手術です。足のつけ根を数cm切開するだけなので、局所麻酔で15分程度しかかかりません。外来で安全に行えるので15〜20年前に広く普及しました。

しかし、時間がたつと糸がほどけたりして再び逆流が生じてしまうので、再発が多く発生しました。しばる場所を増やしたり、硬化療法という注射の治療を同時に行ったりする工夫が行われましたが、結局、治療成績は静脈を全部取ってしまうストリッピング手術にはかないませんでした。 現在では日帰り手術としてはほとんど行われませんが、軽症例や静脈が曲がりくねっていてレーザー治療やストリッピング手術ができない静脈瘤に対して行われることがあります。

4. 血管を抜き取る「ストリッピング手術」

ストリッピング手術

図2. ストリッピング手術

ストリッピング(stripping)手術の“stripping”は、英語で「はぎ取る」、「取り去る」を意味する「ストリップ(strip)」からきています。小さな皮膚切開から病気になった静脈を抜き取る手術です。最初のストリッピング手術は、アメリカ人の外科医William Lorden Kellerが今から111年前の1905年に報告しています6)

高位結紮術より再発が少なく治療効果は優れていますが、全身麻酔や下半身麻酔が必要なので通常は入院で行われます。しかし、最近では麻酔方法の工夫によって日帰りで行えるようになっています。特に「TLA麻酔」という特殊な局所麻酔によるストリッピング手術は、身体への負担が少なく手術直後に歩いて帰れるので日帰り手術に適しており7)、後述の血管内焼灼術でもTLA麻酔が使われています。ストリッピング手術の合併症として皮膚の感覚がにぶくなったりしびれる「神経障害」が多く、問題となっていました。しかし、静脈を引き抜く範囲を狭くする「部分ストリッピング手術」によって神経障害は非常に少なくなっています8)

ストリッピング手術は、伏在静脈という太い静脈が病気になった「伏在型静脈瘤」を治療する場合に行われ、クモの巣状・網目状静脈瘤に対しては行われません。

5. 身体に優しい「血管内焼灼術」

血管内焼灼術

図3. 血管内焼灼術

血管内焼灼術は、静脈の中に細いカテーテルを入れ、内側からレーザーや高周波による熱で静脈を焼いてふさいでしまう治療です。静脈の周囲には局所麻酔(TLA麻酔)をするので、静脈を焼く時に痛みはまったくありません。焼いてふさいだ静脈は、半年ぐらいで自然に吸収されてなくなってしまいます。皮膚を切らないで局所麻酔だけで行うことができるため、身体に優しく日帰り手術に最も適しています。血管内焼灼術は、ストリッピング手術と同様に伏在型静脈瘤が対象となります。日本では2002年からレーザー治療が行われていますが、2011年に保険適用されてから急速に普及して、今ではストリッピング手術に替わる治療となっています。

6. どの血管内焼灼術がいいの?

保険適用の血管内焼灼術

図4. 保険適用の血管内焼灼術
※()内は保険に認可された年

一口に血管内焼灼術といっても色々な種類があります。大きくレーザー治療とラジオ波治療の2種類に分けられ、レーザー治療では波長810nm〜2000nmのレーザーが使用されています。使用するレーザーの波長によって再発率や手術後の痛みが異なりますが、現在は波長1470nmレーザーが世界的に主流となっています。日本でも2014年に波長1470nmレーザーとラディアル2リングファイバーを組み合わせた最新のレーザー治療が保険認可されています。

ラジオ波治療は米国で主流の血管内焼灼術で、カテーテル先端のコイルに高周波電流を流して熱を発生させて静脈を焼く治療です。高周波の俗称がラジオ波のためラジオ波治療と呼ばれています。こちらもクロージャーファーストカテーテルという最新の機器が2014年に日本で保険認可されています。

身体に優しいはずの血管内焼灼術ですが、治療が始まった頃は手術後の痛みがかなり強く問題となっていました。しかし、これらの最新の血管内焼灼術では手術後の痛みはほとんどないので、どの治療を選んでもまったく心配はありません。

7. 未来の日帰り手術

未来の日帰り手術

図5. 未来の日帰り手術

保険適用となった1470nmレーザー治療やラジオ波治療はどちらも痛みはほとんど無く、安全に下肢静脈瘤を治療することができます。しかし、これらの手術は静脈を焼いてふさぐため静脈のまわりに局所麻酔が必要です。最新の日帰り手術は、静脈を焼かないでふさぐ局所麻酔が必要ない治療です。現在最も有望なのが、2015年に米国の厚生労働省にあたるFDAで認可された「ベナシール(VenaSealTM)」という治療になります。

これは瞬間接着剤(いわゆるアロンアルフア®)を静脈の中に注入してふさいでしまう方法で、糊を意味する「グルー(glue)」とも呼ばれています。治療用のカテーテルを入れる部分だけの麻酔ですむため、短時間に治療を行うことができます。まだ保険適用されていませんが、数年のうちには日本でもベナシールによる治療が行えるようになるかもしれません。

最後に・・・
下肢静脈瘤の治療は、血管内焼灼術による日帰り手術が標準的な治療となっており、すべて保険診療で行えます。下肢静脈瘤でお悩みの方は専門医を受診して適切な診断と治療を受けられることをお勧め致します。

【参考文献】

1) 伊藤勝朗他:硬化療法と小手術の併用による下肢静脈瘤外来治療の早期成績.日外会誌 92(Suppl):227,1991

2) 桜沢健一他:高位結紮術を併用した下肢静脈瘤硬化療法
.日臨外会誌55(Suppl):150,1994

3) 小銭太朗他:日帰り下肢静脈瘤手術1600症例の検討.日臨外会誌 62(Suppl):281,2001

4) 平井正文他:下肢静脈瘤−本邦における静脈疾患に関するSurvey II-.静脈学 9:347-355,1998

5) 平井正文他:下肢静脈瘤-本邦における静脈疾患に関するSurveyVIII-.静脈学 15:339-346,2004

6) Keller WL. et al: A new method of extirpating the internal saphenous and similar veins in varicose conditions. A preliminary report. N Y Med J 82:385–386,1905

7) 広川雅之他:局麻下ストリッピング手術−TLA法の実際と手術成績−.静脈学 13:357-362,2002

8) Holme JB,et al: Incidence of lesions of the saphenous nerve after partial or complete stripping of the long saphenous vein. Acta Chir Scand 156:145-148,1990