2017.02.01

鼻のむずむずは病気?医師が教えるアレルギー性鼻炎について

この記事の監修ドクター

監修ドクター
たてもと耳鼻咽喉科クリニック
立本 圭吾 医師

京都府京都市東山区三条大橋東入ル大橋町94 三条鈴木ビル5F

075-752-3387

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鼻がむずむず

鼻がむずむず、そして「くしゃみ」、「鼻水」、「鼻づまり」。
このような症状があったらまず疑われるのが、カゼですが、そんな状態が年中続くようなら、アレルギー性鼻炎かもしれません。一度発症すると自然治癒することはほとんどありませんので、不快感に悩まされないよう上手に付き合っていく必要があります。


今回は、いまや日本の全人口の約40%がかかっているといわれるこの疾患のメカニズムや、症状、治療法について医師の監修のもとご説明していきます。



アレルギー性鼻炎とは

鼻をかむ女性

鼻炎には、大きく分けて、「感染性鼻炎」と「アレルギー性鼻炎」があります。
「感染性鼻炎」の原因はほとんどの場合ウィルスへの感染です。特に体が疲れて免疫力が落ちている状態で起こりやすく、原因であるウィルスが退治され、体外に除去されれば、発症して1~3週間で自然に治ります。

ただし、稀に、数週間たっても治らず、慢性化する場合もあります。
一方、「アレルギー性鼻炎」は、「アレルゲン」と呼ばれる、アレルギーを引き起こす物質が原因となります。

アレルギー性鼻炎はなぜ起こる?

アレルギー性鼻炎が起こる仕組みについて簡単にご説明しましょう。
人間は、誰しも「免疫」という自己防御システムを持っており、体内に異物が入ってくると、それに対応した「抗体」を使って異物を除去することで体を守ろうとします。この「免疫」のシステムが過敏に反応してしまう状態が「アレルギー」です。

免疫には、すべての人の体に先天的に備わっている抗体を使う「自然免疫」と、何らかの刺激を受けて後天的に作られた抗体を使う「獲得免疫」とがあります。アレルギーは、「獲得免疫」で起こる反応で、特にIgEという抗体が関係すると言われています。

IgEは、ダニや花粉や食物タンパクなど自然界に普通に存在する物質に対して反応する抗体で、それが体内に増えると、こうした物質(アレルゲン)に対して過剰反応を起こし、さまざまな症状が現れるというわけです。
アレルギー体質とは、このIgEを作りやすい体質のことを言い、遺伝的に決定されています。


アレルギー性鼻炎の種類とそれぞれの原因

アレルギー性鼻炎には、特定のシーズンにだけ症状が起こる「季節性アレルギー性鼻炎」と、季節に関係なく一年中症状が出る「通年性アレルギー性鼻炎」の2種類があります。
この二つの違いは、アレルギーの原因物質であるアレルゲンの違いによるものです。

①季節性アレルギー性鼻炎の原因

季節性アレルギー性鼻炎のアレルゲンは「花粉」。つまり、季節性アレルギー性鼻炎とは「花粉症」のことです。
原因となる花粉は日本で約50種類ほどありますが、その中でダントツで多いのは、スギ花粉を原因とするスギ花粉症で、花粉症患者の約70%とも言われます。

飛散する時期は、2月上旬から4月です。また、3月中旬から5月上旬に飛散するヒノキ花粉は、スギ花粉と形が似ていて、スギに反応する人の7割は、ヒノキにも反応すると言われています。その他、一年を通してさまざまな花粉が飛散しています。

季節別に見ていくと、春が最も多く、スギ、ヒノキの他に、シラカンバ(4~5月)、ハンノキ(1~6月)、コナラ(4~5月)などの樹木の花粉が飛び始めます。夏は主にイネ科の植物で、代表的なものはカモガヤ(4~7月)など。
秋には、ブタクサ(8~10月)やヨモギ(8~9月)などキク科の植物の花粉が飛びます。冬は比較的花粉が少ない季節ですが、例えばスギは秋、冬も少量ながら花粉を飛ばしていますので、発症する可能性は十分あります。


なお、花粉の飛散量は、その植物の植生によるため地域差がある場合もあります。例えば、スギは、北海道、沖縄ではまったくと言っていいほど飛散しません。一方で、スギの植林が多い山梨、長野などや、周囲を植栽地で囲まれた関東地方は飛散量が多くなります。イネ科の植物は東北、北海道に多く、九州は少ないですが、ブタクサは西で多く、東北では少ないということもあります。

②通年性アレルギー性鼻炎の原因

通年性アレルギーのアレルゲンは、日常生活の中でごく身近にあります。
例えば、ダニ、あるいはダニやゴキブリなどの死骸やフン、家のチリやホコリ、抜け毛やフケ、繊維のクズ、食べかす、犬猫の毛、細菌などで、これらのアレルゲンがいくつか混合したものを「ハウスダスト(室内塵)」と呼びます。

ちなみに、ハウスダストの大半は、チリダニ(ヒョウヒダニ)と呼ばれる種類のダニとそのフンです。チリダニは日本に限らず世界中に広く生息しており、このダニのいない家はまずないでしょう。他の動物に寄生することはなく、動物のフケや花粉、カビ、細菌、植物の繊維などを食べて生きています。大きさは0.1~0.2ミリ、糞の粒は10~40マイクロメートル。温度25~28度、湿度60~70%といった条件でよく繁殖します。
冷暖房が普及し、すき間がないように密閉された日本の住宅環境はこのチリダニが繁殖するのに好都合で、現代的な住宅事情が通年性アレルギーが年々増加している大きな要因となっているのではないかと思われます。



アレルギー性鼻炎の症状

季節性アレルギー性鼻炎も通年性アレルギー性鼻炎も基本的に症状は変わりません。
くしゃみ、鼻水、鼻づまり。さらに、鼻炎以外に、目の充血やのどの痛み、皮膚の炎症などが起こることもあります。

アレルギー性鼻炎の症状は、風邪の初期症状とよく似ています。風邪なら安静にしておけば自然治癒していきますが、アレルギー性鼻炎だった場合は、そのままにしておいても改善されませんので、風邪のような症状が長引いた場合には、専門医で鼻炎の原因を検査することをお勧めします。

アレルギー性鼻炎の検査

アレルギー性鼻炎が疑われる場合、まずは、鼻炎の原因が本当にアレルギーなのかを判別し、もしアレルギーだった場合、原因となっているアレルゲンをしっかり特定する必要があります。

①アレルギーの有無を調べる

鼻炎の原因が感染性のものなのか、あるいはアレルギーによるものなのかを判定するのに適しているのが、「鼻汁好酸球検査(びじゅうこうさんきゅうけんさ)」です。

この検査は、鼻水の中に白血球の一種である「好酸球」が出現しているかどうかを、顕微鏡を用いて調べるものです。好酸球は鼻炎が「アレルギー性」の場合にのみ顕著に現われ、風邪などウィルス性の「感染性鼻炎」の場合にはほとんど見られませんので、症状がアレルギーによるものか否かをはっきりと判別することができます。

また、検出された好酸球の量によって、アレルギーの強さも判断することができます。ただし、この検査で原因となっている抗体を特定することは出来ません。短時間で簡便に行えるうえに患者への負担が軽いため、用いられることの多い検査方法です。

②アレルゲンを特定する

血液検査

アレルギーであることが確認できたら、アレルギーの原因となるアレルゲンを特定します。

①血液検査

アレルギー性鼻炎は、IgEという抗体がダニや花粉などアレルゲンに反応して起こります。

IgEは個々のアレルゲンに対して個別に存在します。例えばダニに対するIgEの数値が高ければダニに対するアレルギーが、スギ花粉のIgEの数値が高ければ、スギ花粉に対してアレルギーがあるということになります。このような特定のアレルゲンに対するIgEの量は血液から調べることができます。
これを特異的IgE検査(RAST)と言います。

この検査で調べられるアレルゲンは200種類以上もあり、現在のアレルギー検査では最も信頼性のある検査ではありますが、この検査でわかるのはあくまでも原因の可能性があるアレルゲンであって、発症しているアレルギーの原因となっているアレルゲンを断定することはできません。費用は、健康保険が適用され、アレルゲン10件分の反応を検査した場合、おおむね4000円くらいになります。

②皮膚反応検査

アレルギーの原因は皮膚の反応により特定することができます。
皮内テストは、原因と疑われるアレルゲンを患者の皮膚に注射し、しばらく時間をおいて発赤や腫れ、かゆみなど、その部分の反応を見る検査です。

似た検査に、腕の皮膚に小さな傷を付けてアレルゲンを垂らし反応を調べる「プリックテスト(スクラッチ)」やアレルゲンを軟膏に混ぜたパッチを皮膚に貼って反応を調べる「パッチテスト」などがあります。 ただし、重度のアレルギー反応を起こす患者の場合、アレルゲンがたとえ少量でもアナフィラキシー(極めて短い時間のうちに全身にアレルギー症状が出る反応)などの症状を引き起こす危険性があるので注意が必要です。

また、これらの検査はすでに抗アレルギー薬などを服用している状態では正確な反応が出ない場合があります。費用は、いずれの検査にも健康保険が適用され、料金は約1,500円から4,000円程度になります。

③鼻粘膜誘発テスト

原因として疑われるアレルゲンのエキスがしみこんだ紙を鼻の粘膜につけて、反応が現れるかどうかを調べる検査です。敏感な場所で反応を見るため、症状が具体的にはっきりわかる検査ですが、こちらもアナフィラキシーの危険性に留意する必要があります。費用は、1カ所160円、22カ所以上3,500円で、症状によって異なります。


アレルギー性鼻炎の治療法

診療

アレルギー疾患の主な治療には、①アレルゲンの除去・回避②症状軽減、薬物療法③アレルゲン免疫療法(減感作療法)④手術療法があります。それぞれについて、説明をしていきましょう。

①アレルゲンの除去・回避

アレルギー性鼻炎の治療の基本は、アレルゲンに触れないようにすることです。
検査により、アレルゲンが特定できれば、それを除去し、回避することによって症状は軽くなります。

花粉など季節性の場合は、花粉の季節を何とかやり過ごせばアレルギー性鼻炎の症状も収まっていくでしょう。
ハウスダストなど通年性の場合は生活環境の改善などでアレルゲンを常に身の回りから除去していくことが必要です。
アレルギー性鼻炎を引き起こすアレルゲンは身近に存在する場合が多いので、完全に避けることは難しいですが、
以下のような点に注意することで症状を軽くしていくことができます。


●「花粉」から身を守るためには、マスクの着用が有効です。マスクを用いるだけで体内に入る花粉を3分の1以下に減らすことができると言われています。ただし隙間があるとそこから花粉が侵入してしまいますので顔にフィットするものを選びましょう。
また同様にメガネの着用もお勧めです。衣服は、花粉が表面につきやすいふわふわした素材を避け、ポリエステルや化学繊維、綿など表面がサラサラしている素材のものを着用しましょう。外出から戻ったら、衣服や髪をよく払い、うがい、洗顔を励行しましょう。こまめな掃除や、花粉が部屋に入ってこないよう注意を払うことも大切です。


●「ハウスダスト」の除去のためには、住環境をこまめに掃除することが大切です。排気循環式の掃除機で、週に2回以上部屋の掃除をしましょう。
また、ハウスダストが付着しやすい布張りのソファやカーペット、畳はできるだけ避け(フローリングが適)、寝具はこまめに干し、シーツはこまめに取り替えるなど、身の回りのハウスダストを減らすよう心掛けましょう。

②症状軽減、改善のための薬物療法

アレルギー性鼻炎の症状を軽減させるためには薬物を用います。
症状が軽い段階で主に使われる薬物は「第2世代抗ヒスタミン薬」と呼ばれる抗アレルギー剤です。
アレルギー症状のもととなる体内物質「ヒスタミン」の働きを押さえる薬で、特にくしゃみ、鼻水を抑える効果があります。

また、鼻づまりがひどい場合には、抗ロイコトリエン薬も使われます。ある程度症状が進行してしまった場合鼻の粘膜に過敏反応が出てくるので、それを抑えるためにやや強い薬物を使っての治療を行います。
くしゃみ・鼻水には抗ヒスタミン作用の強い薬を、鼻づまりには抗アレルギー薬に加えて点鼻薬を併用したり、気管支ぜんそくにも用いられるロイコトリエン受容体拮抗薬などを用います。

目に症状が出ている場合には点眼薬も使われます。なお、症状が重い場合にはステロイド剤の点鼻薬や内服薬を使うこともありますが、副作用の可能性があるので、服用量、回数を正しく守り、長期使用は避けたほうがよいでしょう。

③アレルゲン免疫療法(減感作療法)

アレルギー性鼻炎の自然治癒はほとんど期待できません。アレルギー性鼻炎の原因は、人それぞれの「体質」にあるからです。
現在の医学ではアレルギー体質を完全に変える治療法はありません。しかし、ある程度アレルギー反応をおこしにくくする方法はあります。これを「アレルゲン免疫療法」といいます。

原因になっているアレルゲンを抽出したエキスを、長期間にわたって少しずつ体内に皮下注射することによって、そのアレルゲンに対する新たな抗体を作っていきます。一種の体質改善のようなものと考えれば理解しやすいでしょう。
この治療の難点は、効果が現れるまでに3~5年程度かかるため、長期間継続して投与しなければならないということです。
また、効果に個人差があり、快癒するかどうかはやってみなければわからない部分もあり、全く症状がなくなる人が2〜3割、症状軽減が5〜6割、効果が認められない人が2割程度だと言われます。

費用は保険適用で1回の注射(一種類)で500円前後と安価です。

また、アレルゲン免疫療法には、皮下注射ではなく口の中の粘膜からアレルゲンのエキスを投与していく方法もあります。
「舌下免疫療法」と呼ばれるこの治療法では治療薬の錠剤を舌の下側において、粘膜から少しずつ体内に吸収させていきます。
皮下注射よりも安全で、自宅でも服薬できるため簡便、副作用も少ないといったメリットがあります。日本では2014年にスギ花粉の舌下免疫療法が、翌2015年にダニの舌下免疫療法が保険適応となりました。

1か月の治療費は保険適用で3500円前後です。その他、年に1回程度の検査を行なう場合もあります。

④手術療法

薬物療法でも症状が改善しない時には手術療法を選択する場合もあります。鼻の粘膜をレーザーやアルゴンガスで焼いて麻痺させ、アレルゲンが付着してもアレルギー反応が起こらないようにします。
手術は比較的安全に行え、痛みもなく、短期的にみると効果的ですが、数か月経つと粘膜が再生してくるため、症状を抑え続けるためには再手術をする必要があります。

手術時間は5~10分程度。費用は、保険適用で、5,000~10,000円です。


まとめ

現在、日本人の4人に1人が「通年性アレルギー性鼻炎」に、3人に1人が「季節性アレルギー性鼻炎」にかかっていると言われています。この割合も年々増加傾向にあり、もはや誰もがかかってもおかしくない病気と言えます。
さらに一度発症すると今のところ根治できる絶対的な方法はありません。そんなアレルギー性鼻炎と上手に付き合っていくには、まずアレルギーの原因を正しく把握すること、そして原因となるアレルゲンをできるかぎり回避、除去することが大切です。

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