2016.10.11

医師が教える日帰り硝子体手術・費用について

目の検査

硝子体手術は、眼科分野で最も難しい手術の1つとされていますが、現在では機械の発達や技術の進歩により手術可能となる疾患も増え、比較的安全に手術ができるようになっています。また、術後早期の社会復帰が可能で、入院費用のかからない日帰り手術ができる医療機関も増えています。
今回は、専門医の監修の元、硝子体の日帰り手術・費用についてご説明いたします。


硝子体手術とは

硝子体(しょうしたい)とは、眼球の大半を占める透明なゼリー状の組織のことで、眼球の形を保つと同時に、入ってくる光を屈折させる役割をもっています。
眼の仕組みこの硝子体の中に出血や炎症による混濁(濁り)が生じると次第に視力に影響を及ぼしますので、出血や炎症の原因を明らかにして治療を行います。
まずは薬物による治療が行われますが、症状が改善されなかったり、網膜剥離などを併発した場合などには手術が必要となる可能性があります。
また、加齢などにより硝子体が変性して網膜を牽引したり膜を作ってしまった場合にも、牽引を解除したり、牽引によって開いた穴を塞いだり、あるいは膜を除去したりといった手術を行います。

硝子体手術が必要な症状

硝子体出血

目の奥には、網膜(もうまく)と呼ばれる、カメラでいう「フィルム」に相当する神経の膜組織があります。この網膜の血管などが切れて出血し、硝子体に血液が溜まった状態を硝子体出血と言います。 出血により光が網膜までうまく届かなくなるため、視力障害を引き起します。

黄斑円孔(おうはんえんこう)

黄班円孔網膜の中心部分にあたる黄斑(おうはん)部分に穴があく病気です。加齢により硝子体が変質し網膜を牽引することが主原因となります。物が見えにくくなり視力が低下します。以前は治療不可能と言われるほどやっかいな病気でしたが、最近ではほとんどの場合、手術によって穴を閉られ、視力も回復させることができます。

黄斑上膜(おうはんじょうまく)

黄斑上膜硝子体が加齢により変性していき、黄斑に付着し少しずつ厚く膜となっていったものが黄斑上膜です。網膜の前にできたこの半透明な膜にさえぎられてしまうことで、色がくすんで見えたり、やがては視力が低下していきます。またこの膜が収縮することによって網膜を引っ張り、網膜に皺(しわ)を作ったり黄斑に浮腫(ふしゅ:むくみ)ができたりすることがあり、そのために物がゆがんで見えたりする場合もあります。

黄斑浮腫(おうはんふしゅ)

黄斑浮腫黄斑に液状の成分がたまり、むくみを起こし視力が低下する病気です。視力の低下の他、物がぼやけて見える、ゆがんで見えるなどの症状を引き起こします。糖尿病網膜症、網膜静脈閉塞症に伴う眼底出血、ぶどう膜炎など、さまざまな病気が原因となって起こることが多いです。

裂孔原性網膜剥離(れっこうげんせいもうまくはくり)

網膜剥離硝子体の加齢による変質が引き起こす牽引などにより網膜の一部に裂孔と呼ばれる穴が開いて剥がれてしまい、視野と視力障害を引き起こす病気です。硝子体(液体)がその穴を通って網膜の下に入り込むことで発生し、剥離が進行すると、最終的にはすべての網膜が剥がれてしまい、失明に至ります。

糖尿病網膜症(とうにょうびょうもうまくしょう)

増殖網膜症糖尿病の合併症の一つで、網膜の毛細血管が変形したりつまったりして血のめぐりが悪くなり、硝子体出血や黄斑浮腫(むくみ)、さらに進行すると網膜剥離を引き起して視力が低下します。

硝子体手術の流れ

硝子体手術では、眼球の白目の部分に小さな穴を3ヵ所開け、そこから細い器具を眼内に挿入し、眼の中の出血や濁りを硝子体と共に取り除いたり、網膜にできた増殖膜(かさぶたのような膜)や網膜裂孔(網膜の破れ目)を治したり、といった施術を行います。

手術を行う前に

まずは視力検査、眼底検査などを行い、硝子体手術の適応であるかの判断をした上で、手術予定日を決定します。さらに、手術の2週間程度前に手術前検査を行い、事前に手術の内容、費用、手術前後の注意事項等についての説明を受けます。

手術当日の流れ

①局所麻酔を行う

手術室でベッドに仰向けになり、眼の消毒をした後、眼の下の部分に麻酔の注射をします。
局所麻酔をしていても痛みを感じる時がありますので、強く痛む時は麻酔の追加をします。

②角膜の横に手術機器を挿入する

白目の部分に機器を挿入するための0.5mmほどの小さな穴を3か所開けます。
3つの穴の目的はそれぞれ以下の通りです。
1.眼球の形態を保つための還流液を入れる
2.眼内を照らす照明や内視鏡を入れる
3.硝子体を切除するカッターやピンセット、眼内でレーザー治療をおこなう機械を入れる

③硝子体を切除する

カッターで硝子体や出血、増殖膜などを細かくしながら吸引切除をし、切除した分量の灌流液を入れていきます。その後は疾患により、必要に応じて、ピンセットのような器具やハサミ、レーザーなどを用いて処置を行います。

④灌流液の代わりにガスを注入する(網膜剥離や黄斑円孔など)

ガスの圧力で剥離した網膜を元の場所に戻したり、空いた穴を閉じたりします。ガスを注入した患者さんは術後数日間うつむきの姿勢を保つ必要があります。

※手術時間は軽症なら1時間弱、重症の場合は2~3時間程度かかります。(疾患により異なります)

硝子体と白内障、同時手術の必要性

白内障とは、眼球にある水晶体(すいしょうたい)が白く濁ってしまう病気です。外部からの光を集めてピントを合わせる、カメラでいう「レンズ」の役割をしている水晶体が白濁することで、光が眼底に届きにくくなってしまい、視力の低下や視界のぼやけ、かすみなどの症状が現れます。

白内障にかかった水晶体があると手術中に網膜が見えにくくなること、また水晶体を残したまま網膜周辺の硝子体を切除することが困難なことなどから、手術を安全、確実に行うため、ほとんどの症例において、硝子体手術と白内障手術を同時に行います。また、硝子体手術を行うと水晶体に白内障が生じやすくなるため、白内障にかかっていない場合でも、同時手術を行う場合があります。


日帰り硝子体手術の費用

手術にかかる費用は疾患の状態によっても異なります。以下に紹介する金額はあくまでも目安ですので、医療機関で診察を受ける際に説明を受けてください。

1割負担 約 40,000円 ~  60,000円
2割負担 約 80,000円 ~ 120,000円
3割負担 約120,000円 ~ 180,000円
※白内障手術を同時に行うと、1割負担で約7,000円、3割負担で約20,000円が追加となります。

高齢者(70歳以上)
1割負担 12,000円以下
3割負担 44,400円以下
※白内障手術を同時に行った場合でも同額です。

硝子体手術の手術後の注意点

①目をこすったり圧迫したりしない

出血のリスクが高まりますので、術後は安静にしてください。その他目に負担になることは避けましょう。

②目薬をしっかり点眼する

菌が眼に入って重篤な感染症(眼内炎)を起こす危険性があるのは、手術後6日以内と言われています。医師の指示に従い、目薬の点眼は怠らずに行ってください。また、汗が目に入るような力仕事、スポーツや、ほこりの多い環境での作業は極力控えてください。なお、術後の点眼薬は約1か月ほど続ける必要があります。

③目に目薬以外の水を入れない

手術後1週間は、洗顔は行わず顔を拭く程度にします。入浴は目をぬらさないよう注意して術後3日目から。首から下のシャワー程度なら、手術当日から可能です。

④うつむきの姿勢を守る(ガスを注入した場合)

黄斑円孔や網膜剥離などの疾患の場合、眼内にガスなどの気体を注入するため、術後に姿勢の制限が必要になることがあります。「顔を下に向ける姿勢、覚醒時間の3分の1以上行う」「仰向けに寝ない」「なるべく右側を下にして横になる姿勢を保つ」など、病状によって異なります。当面は活動が制限されますので、家事や仕事への復帰が遅れることも考慮してください。

⑤車の運転は控える

法規上、車の運転には両目(両眼)で0.7以上、かつ、片目(片眼)でそれぞれ0.3以上が必要となります(普通第一種)。いつ運転が再開できるかは回復の状況によって異なります。特に眼内に気体を注入した場合は、気体が自然吸収されるまで数日から2週間程度、眼がよく見えない状況が続きますので、通院する場合にもご自身での運転は困難でしょう。術後の経過を見ながら医師の判断に従うことになります。

⑥異常を感じたらすぐに医療機関に連絡・受診

術後、一番怖い合併症は「術後眼内炎(感染症)」です。確率は1000から2000分の1と言われてますが、発病したら早急な対応が必要です。後ほど紹介する合併症に該当する症状が現れた時には、速やかに医療機関で受診してください。
※手術後の注意は目の状態によって異なりますので詳しくは医師の指示に従ってください。

術後の視力回復について

疾患によって経過は異なりますが、術後半年ほどで回復が期待できます。また、黄斑(網膜の中心部分)に障害を受けた場合には、ものが歪んでみえる症状がしばらく残る場合もあります。
また、術後の視力回復は、手術前の疾患の状態によって大きく差が出ます。手術が必要となったら、タイミングを逃さずなるべく早い段階で手術を行う決断をすることが重要です。

硝子体手術の合併症

1.出血(硝子体出血)

術後、眼内に出血が生じることがあります。出血が少量ならば自然吸収を待ちますが、吸収が遅い場合には洗浄を行ったり、程度によっては再手術が必要となることもあります。特に糖尿病網膜症の術後には頻発しますが、多くの場合2週間以内で改善します。
また、目の奥にある動脈から急激な出血が起こることがあります。「駆逐性出血」と呼ばれる症状で、1万例に一例と極めて頻度は低いものですが、視力が大きく損なわれ、失明に至ることもあります。

2. 網膜剥離

眼内操作や術後の硝子体収縮により網膜剥離が起こることがあります。この場合、網膜を元の状態に戻すために、再手術を必要とします。
また、術後、眼内に形成された膜によって網膜剥離が生じることがあります。「増殖硝子体網膜症」と呼ばれる極めて治療の困難な合併症で、長期間放置された眼疾患や若年者の術後に起こりやすい傾向があります。

3. 角膜障害

特に糖尿病を疾患している場合には、角膜の上皮がもろくなりやすいため、手術を契機に、目の組織の中で最も外界に近い部分にある角膜の表面に傷が付いたり、角膜が濁ることがあります。

4. 眼圧上昇(緑内障)

眼球の形を一定に保つためにかかっている圧力を「眼圧」と言いますが、手術後にこの眼圧が上がることがあります。ほとんどの場合、経過観察あるいは点眼剤、内服薬で治療をしますが、眼圧が下がらない場合には、長期にわたる点眼剤の使用が必要になることもあります。また、眼圧が高くなると、緑内障を発症する可能性があり、その場合手術を必要とすることがあります。
 また糖尿病網膜症の術後に新たに生じた血管が原因で眼圧が上昇し緑内障に進行することがあります。「血管新生緑内障」と呼ばれるこの疾患は、きわめて治療が困難で、失明に至ることもあります。

5. 感染症

術前、術後の抗生剤の使用、術中の消毒と可能な限りの対応をしても、手術後に極めてまれに目の中に細菌が入ることがあります。目は閉鎖空間なので、毒性の強い細菌が入ると、かなり視機能が下がってしまい、失明に至ることもあります。眼内感染がおこった場合、再手術、抗生剤の投与をおこないますが、視力の回復は難しくなります。

6.充血、異物感

術後、手術による傷が眼の表面に残ります。時間が経つにて目立たなくなりますが、充血しやすくなったり、違和感が残ることもあります。


まとめ

以上、硝子体の日帰り手術と費用に関するまとめでした。
硝子体は、年齢とともに柔らかくなり、高齢者では水のようになります(液化)。液化した硝子体は目の中で浮遊し、そのわずかな濁りが小さなごみのように見えることがあります。このような症状を飛蚊症(ひぶんしょう)といいます。
飛蚊症は主に加齢に因るもので、目の中の出血や網膜裂孔・網膜剥離、炎症等の治療が必要な疾患の可能性もありますから注意が必要です。
硝子体に起因する異常は静かに徐々に広がっていきます。特に網膜細胞の機能が完全に失われてしまうと、後で治療しても視力や視野は回復しません。最悪失明に至ることもあります。
近年は治療法が発達して失明の確率は減っていますが、早期発見・早期治療に越したことはありません。飛蚊症が気になりだしたら一度は眼科で検査を受けることをお勧めします。