2016.10.10

医師が教える鼠径ヘルニア(脱腸)の再発について

この記事の監修ドクター

監修ドクター
医療法人社団筑三会 筑波胃腸病院
田村 孝史 医師

茨城県つくば市高見原1-2-39

029-874-3321

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鼠径ヘルニア

ヘルニアと言われると腰の病気を想像する人が多いと思います。

「ヘルニア」とは腹部内に収まっている内臓が、本来あるべき位置からはみ出してしまった状態のことを示す言葉です。また、鼠径(そけい)とは太ももの付け根の辺りのことで、鼠径(そけい)ヘルニアは、臓器が太ももの付け根辺りにはみ出してきてしまう病気のことです。脱腸とも呼ばれます。その起源は古く、紀元前1550年頃の古代エジプト人も認識していたとの報告があります。

今回は専門医の監修のもと、鼠径ヘルニア(脱腸)の再発についてご説明します。


鼠径ヘルニアの再発率

鼠径ヘルニアは手術方法によって再発率が違う

鼠径ヘルニアを1度手術して治療を終えた後に、治療した部位に再び鼠径ヘルニアを発症することを再発鼠径ヘルニアと呼びます。再発鼠径ヘルニアを発症する可能性は1度目に行った手術方法によって違うといわれています。

第12回日本内視鏡外科学会アンケート報告では、人工補強材を使用せずに行われる組織縫合法の再発率は約10.0%と報告され、人口補強材を用いたメッシュ法の再発率は1.0-2.0%と報告されています。また最近施行件数が伸びている腹腔鏡を用いた手術方法では4.0-5.0%とされています。再発パーセント

再発鼠径ヘルニアを発症するのは、いずれの手術方法でも手術を終えた直後から、その後いつでも再発する危険性があると言われています。

再発鼠径ヘルニアの症状は、以前手術をした箇所の周辺にシコリ、痛み、でっぱり、膨らみが発生することで自覚され、疼痛を伴ってくることもあります。その原因は様々ですが、組織縫合法であれば修復した腹壁の脆弱性(もろさ)が原因となり、メッシュ法の場合は、メッシュのズレや補強不足が原因と言われています。もともと鼠径ヘルニアでは、ヘルニアが出てくる部位として、外鼡径輪・内鼡径輪の2つがあり、それぞれ外鼡径ヘルニア・内鼡径ヘルニアと言われます。鼠径部ヘルニアである大腿ヘルニアを含めると鼠径部にはヘルニアが出てくる部位が3つあることになります。外鼡径ヘルニアを手術した場合でも、全く別の内鼡径ヘルニアもしくは大腿ヘルニアが出てくる場合もあり、その場合には厳密には再発と表現することは正しくありません。

残念なことに、鼠径ヘルニア手術後の再発を完全に予防することは困難です。鼠径ヘルニア手術は、悪いところを切除するのではなく、身体の腹壁の弱っているところを、自分の組織や人工補強材を用いて修復する手術であることから、修復した周囲の組織が更に脆弱化したりすることで、修復した部位の脇から再びヘルニアが出てくることは十分考えられることです。

再発鼠径ヘルニアの治療法

再発鼠径ヘルニアは放置して自然に治ることはありません。再発したヘルニアが日常生活に影響を及ぼすようであれば再度手術を検討していただく必要がありますが、再発鼠径ヘルニアの手術が難しいのも事実です。
再発鼠径ヘルニアを治療するには、手術により、再発している部位(でっぱりの穴)をきちんと認識し、同部位を確実な方法で再度被覆してくる必要があります。しかし、初回手術の影響を少なからず受けていますので、組織は癒着し、また初回手術がメッシュ法の場合、使用された人口補強材であるメッシュを取り出すことも容易ではなく、初回手術に比べ、再発鼠径ヘルニア手術後の再々発の確率は、どの術式でも初回手術の確率より高くなると言われております。
また、再発鼠径ヘルニアの手術では、組織の構造を認識することは、前述の癒着の影響などもあり困難であることから、神経を傷つけてしまう恐れがある上、男性の場合は精巣動静脈、精管を傷つける可能性があります。つまり初回手術に比べると手術の難易度は高くなるといえます。

再発鼠径ヘルニア手術には高い技術力と経験が必要です。可能であれば、ヘルニアの専門医が在籍している医療機関へ相談することをおすすめします。

組織縫合法の再発率(10%程)

組織縫合法とは、メッシュが使われる様になる以前に主流であった術式です。従来法とも言われます。従来法というものの、人工物を使用しないという点では非常に良い術式であり、現在も本術式を第一選択としている施設を認めます。数多くのヘルニア手術の経験があり、しっかりと解剖を熟知していれば、十分鼠径ヘルニアに対する根治的な修復術と言えます。

手術方法は、人工補強材を使用しない代わりに、自分の組織を用いて修復術を施行します。ヘルニア門(でっぱりの穴)が大きい場合には、組織を強く引っ張り穴を被覆する必要があります。そのため、術後に過度の組織緊張が生じ、疼痛の訴えが他の術式に比べ強い傾向にあると言われます。そのため組織の脆弱性が改善されず、再発をきたしてしまう可能性があり、再発率は10%程度と言われています。

メッシュ法の再発率(1~2%程)

鼠径部周辺の筋膜や筋肉を引き寄せ縫合する従来法と異なり、人工補強材(ポリプロピレン製メッシュなど)で作られたものを筋膜の弱い部分に挿入し補強する方法です。従来法で感じる術後のつっぱり感を予防する為に1990年代頃に開発された方法で、近年ではもっとも手術症例数が多い術式です。

手術方法は使用する人口補強材の種類や挿入部位の違いによりLiechtenstein法、Plug法、Direct Kugel法、Kugel法など様々な術式があります。ヘルニア門(でっぱりの穴)までの到達方法は体表からの前方アプローチであり、鼠径部ヘルニアの3つの穴を同時に人口補強材で補強する方法や、一つの穴のみを補強する方法など手術の方法は様々です。
再発してくる場合には、ヘルニア門(でっぱりの穴)を人工補強材で十分に補強できなかった場合、または、人工補強材がずれてしまう場合などが考えられます。再発率は1-2%程度と言われております。

腹腔鏡下鼠径ヘルニア手術法の再発率(4~5%程)

腹腔内に腹腔鏡を挿入し、腹部内の様子を確認しながら、鉗子を用いて手術をする方法をTAPP法、腹腔内ではなく腹膜前腔にカメラを挿入し、手術する方法をTEP法と言います。近年非常に普及が進んでいる手術方法で、創が小さく、カメラによる拡大視効果から、より繊細な手術が可能とされております。
TAPP法は腹腔内にカメラや鉗子を挿入するために、術後に癒着などの合併症をきたす可能性が高くなると報告されておりますが、再発鼠径ヘルニアの手術や、両側鼠径ヘルニアの手術の場合には腹腔内から観察することの利点は大きいとも言われております。TEP法に関してはヨーロッパヘルニア学会の報告ではメッシュ法の一つであるLiechtenstein法とともに第一選択の術式と言われております。
従来法やメッシュ法に比べ、その習得には時間がかかると言われておりますが、修練された施設における腹腔鏡下手術は鼠径ヘルニアに対する優れた修復術と言えます。
腹腔鏡下鼠径ヘルニアの再発では十分に人工補強材で補強できない場合や人工補強材がずれてしまう場合が考えられます。再発率は従来法よりも高く4-5%程度と言われております。


鼠径ヘルニアが再発したときの痛みや症状

再発鼠径ヘルニアの症状は手術前と同様の部位に指で押せば戻るようなシコリ、ふくらみができます。シコリ、ふくらみは認めないものの、痛みだけ感じることもあります。また患者様の中には明らかな膨隆がなくても、ご自身の感覚で再発に気がつかれる方もいます。
再発鼠径ヘルニアでは、前回の手術の影響から、膨隆しているヘルニア内容物が腸管の場合、嵌頓(かんとん)を起こす可能性も十分に考えられます。この状態は腸管が強く圧迫されて血液が充分にめぐっていない状態で、時により腸管の壊死をきたしてしまう可能性もあります。嵌頓状態にまで悪化すると激しい痛み、嘔吐等を伴うので緊急手術を行う場合もあります。

良性疾患である鼠径ヘルニアでも、嵌頓・腸管壊死になれば命に関わることもありますので、何かありましたら医療機関に相談することをおすすめします。

手術を施していない側に発症する場合

手術を施していない側に鼠径ヘルニアを発症する場合は再発とは表現しません。反対側に新たに発症した鼠径ヘルニアです。
鼠径部の腹壁が弱い人の場合、両側に発症しやすい傾向があります。片側を手術する際に、反対側にも症状がある場合には、担当医にお話をして、十分に対側の診察をしてもらうように心がけてください。

鼠径ヘルニアの再発予防に効果的と考えられること

鼠径ヘルニアの再発に手術方法が大きく関わってくることは説明致しました。しかし、後天的な要因も大きく関わってくると考えられます。この項目では鼠径ヘルニアの再発予防策について説明します。

重要なのは筋肉トレーニングよりも生活習慣の改善

鼠径ヘルニアの予防で重要なのは筋力の増強ではなく生活習慣を改めることです。足の付け根付近の筋膜や腹壁は、腹圧が高くなることによって刺激を受けます。
そのため、慢性的に腹圧が高くなる状況が多い場合には鼠径ヘルニアは発症しやすくなると考えられています。具体的には便秘症や太り過ぎの場合です。
太った人そのため、腹筋等の筋力トレーニングを過度に行っても鼠径ヘルニアに対する効果はあまりないと考えられています。
患者様の生活スタイル、体力、年齢によって適している予防法は異なりますが、普段の生活では腹圧が高くならないよう便秘症や太り過ぎには十分な注意が必要です。

仕事・家事への復帰について

日常生活への復帰は手術後2-3日で多くの場合問題ないと考えられます。ただし、お仕事に関しては注意が必要です。事務系、身体に負担がかからない業務でしたら問題ありませんが、下腹部に力が入るような激しい業務の場合、担当医とよく相談することをおすすめします。


まとめ

以上、鼠径ヘルニア(脱腸)の再発についての説明でした。
ポイントを以下にまとめます。

・鼠径ヘルニアは手術方法によって再発率が変わる
・再発鼠径ヘルニア手術は初回手術よりも再発率は高く、手術手技は困難であることが多い
・予防法としては便秘症や太り過ぎなど、生活習慣にも気をつける必要がある

再発を疑う場合には、我慢してそのままにせず、医療機関を受診する様にしてください。

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田村 孝史 医師

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