2016.08.23

医師が教える中耳炎の日帰り手術と費用

耳_女性

「中耳炎」と聴くと“子供の病気”というイメージがあるかもしれません。
確かに、中耳炎は子供の方が発症数は多いです、しかし大人になってからも発症する事もあります。耳が突然聞こえづらくなった、詰まっている感覚がある、そのような症状は中耳炎の初期症状かもしれません。大人が発症する中耳炎は、症状が重く、治りにくいと言われています。

「今後も一生治らないのではないか?」
という不安に煽られながら長期間治療を続ける人も少なくないです。

子供の中耳炎と違い、痛みがない、微弱である場合が多いので風邪の延長と自己判断し放置する人もいますが、進行が早く、悪化すれば難聴に陥る場合もあります。

耳に異常を感じたら早急に耳鼻科、耳鼻咽喉科に相談する事をおすすめします。

今回は専門医の監修の元、「中耳炎」の日帰り手術・費用についてご説明します。


中耳炎とは

耳の構造人の耳は内側から、内耳(ないじ)、中耳(ちゅうじ)、外耳(がいじ)と3つの区画に分類されています。

中耳炎は、読んで字の如く「中耳」の部分に菌等が侵入してしまい炎症が引き起こされている症状です。発症すると耳から膿が流れ出てくる「耳垂れ」や、耳が痛くなる等の症状が現れます。

中耳炎を発症する時期のピークは1、2歳から5歳ぐらいまでで、この時期は大人と比較すると抵抗力が弱い事が原因です。5歳を越えると抵抗力が高まるため、中耳炎を発症する事も減ります。

中耳炎の種類

急性中耳炎

耳_子供急性中耳炎は、耳の違和感、異常だけでなく、発熱する場合もあります。
他にも次のような症状を伴う場合があります。

・耳のつまり感
・耳に手をあてる
・難聴等

また、赤ちゃんが発症した場合、中耳炎に伴って風邪をひく。大量の鼻水や、鼻すすりが原因で次のような症状が現れる場合があります。

・耳によくさわる
・むずがる
・急に泣き出す

滲出性中耳炎(しんしゅつせいちゅうじえん)

成人が発症しやすいのが「滲出性中耳炎」です。滲出性中耳炎を発症する原因は加齢で、歳を重ねる事で耳管の働きが弱くなり、滲液が鼓室に溜まることで発症します。滲出性中耳炎滲出性中耳炎が身体に与える影響は比較的軽いと言われますが、1度治っても再び発症しやすい傾向があります。

また、ストレスも中耳炎を発症する原因の1つです。原因がストレスにある中耳炎は不規則な生活リズムや睡眠不足がきっかけである場合が多いため、大人になってから初めて中耳炎になる人が多いと考えられています。

睡眠不足_徹夜滲出性中耳炎は次のような事柄が原因で発症すると考えられています。耳の調子がいつもと違うと感じたら耳鼻科、耳鼻咽喉科で相談しましょう。

・鼻をすする癖
・急性中耳炎からの移行
・鼻の奥にある扁桃腺の一種である「アデノイド」が大きい
・飛行機などで感じる急激な気圧の変化
・アレルギー性鼻炎等の影響で鼻水が長い間出る

滲出性中耳炎は治りにくく、気がつきにくい

滲出性中耳炎は1度発症すると非常に完治しづらいと言われています。また、発症していることに気がつかないことも多いと言われています。単なる風邪だと思っていたのに中耳炎を発症していたケース等もあり、滲出性中耳炎に悪化する等のリスクもあります。なお、滲出性中耳炎によって引き起こされる難聴の程度は比較的軽いと言われています。


癒着性中耳炎(ゆちゃくせいちゅうじえん)

急性中耳炎を何度も繰り返し発症する事で難治化させてしまったり、学習力の低下、言葉の発達が遅れるなどの問題が生じる場合があります。鼓膜の中の空気が減るにつれて、鼓膜の張りが失われてしまい更に強く凹みます。すると耳の奥にある壁に癒着してしまい「癒着性中耳炎」を発症します。

慢性中耳炎

慢性中耳炎は、幼少期に施された急性中耳炎の治療が不十分である等が原因で慢性的な細菌感染が中耳で持続してしまう状態です。

耳の構造_中耳炎これにより、鼓膜が長期間の炎症や穿孔を引き起こし、耳小骨や中耳にまで障害が広がった症状が慢性中耳炎です。慢性中耳炎を発症すると伝音性難聴を伴います。加えて感音性難聴を混在する場合もあります。また、耳漏を繰り返すようになります。炎症が悪化すると頭痛、耳鳴り、めまい、極稀に顔面神経の麻痺といった症状を伴います。

慢性中耳炎の治療

慢性中耳炎を治療するには、点耳薬や局所処置を行い炎症を抑えます。治療を施す事で慢性中耳炎による耳漏を抑制できます。しかし、中耳に慢性的な病巣が存在していると風邪等の他の病気をきっかけに耳漏を再発する場合があります。
症状が治まらない場合は慢性的な病巣に対し治療を行う必要があるだけでなく鼓膜穿孔の閉鎖、耳小骨の再建、中耳腔の形成といった聴力の改善を目的とした手術的治療が必要になる場合があります。

慢性中耳炎の手術

慢性中耳炎の手術ですが、慢性的な病巣がなくなっており、鼓膜の閉鎖のみを行えば良い状態であれば鼓膜形成術が行われます。鼓膜の閉鎖だけでなく、慢性的な病巣の清掃、耳小骨の再建を行う必要があれば乳突削開術と鼓室形成術を行います。

耳小骨の再建を行う方法として、現在主流になっているのは「軟骨接合型人工耳小骨」を用いた手術です。軟骨接合型人工耳小骨を用いる事で治療の安全性を高める事ができ、多くの大学病院で活用されています。

鼓室形成術には難聴の悪化、耳鳴り、めまい、最悪の場合は味覚障害や顔面神経麻痺のような重いリスクがあるといわれていますが、手術経験が豊富な専門分野の医師が存在しているため、そのような先生が在籍している医療機関での診察を受ける事をお勧めいたします。

真珠腫性中耳炎(しゅんじゅしゅせいちゅうじえん)

鼓膜の一部(耳垢が蓄積したもの)が増えて奥に入り込んでいく症状の中耳炎です。球状であることから真珠と名付けられていますが、中耳、内耳を破壊していくとも言われており、中耳炎のなかでも悪い部類に入ります。また、鼻をすする癖がある人に起こりやすいと言われております。なお、手術での治療となり、鼓室形成術を行って治療します。


中耳炎の日帰り手術

鼻の手術中耳炎の手術を「日帰り」で行える医療機関も存在します。

日帰り手術は海外では積極的に行われており、イギリスでは7割、アメリカでは8割の人が日帰りで手術を行っているとも言われています。

内視鏡やレーザー等の医療機器が開発され、治療に用いられる等医療技術は日々進歩しています。日本でも日帰り手術を提供する医療機関が最近では増加傾向にあります。
これは手術後の入院はせず、その日のうちに自宅に帰りたいという患者さんの要望を満たすだけでなく、入院をしないため、経済的な負担を減らす事ができるのもメリットの1つです。

もちろん、日帰りだからと言って手術が簡単になったり、リスクが減るわけではありません。手術前に充分な説明を受けていただき、治療内容や病気に対して充分理解していただく事が必要です。

中耳炎などの耳に病気で日帰り手術を行う場合は、次のような症状がある場合となります。

・耳漏する
・鼓膜に穴が開いている
・耳が良く聞こえない

これらの症状は慢性中耳炎、真珠腫性中耳炎を発症している際に現れます。手術を行う前に担当の医師から充分な説明を受け、内容、段取りに納得した上で望みましょう。

鼓膜切開術(レーザー治療/日帰り外来手術)

レーザー手術昨今では、レーザー治療が中耳炎に対して有効な治療法であると考えられています。レーザー治療は、急性中耳炎によって鼓膜の奥に蓄積された膿を取り出す際に選択されます。
レーザーで鼓膜に穴を開けますが、メスで開けるよりも痛み・出血・要する時間も極少です。ただし、穴が塞がるまでに1~3週間程必要であり、メスよりも時間がかかってしまいます。
繰り返し中耳炎を発症している人はすぐに鼓膜の穴が塞がってしまう事が要因でもあるので有効な治療法と考えられています。

鼓膜チューブ挿入術(日帰り外来手術)

鼓膜チューブ挿入術は滲出性中耳炎と呼ばれる、水が鼓膜の奥に長期間溜まってしまう事で聴力に悪影響が及ぶ、なかなか完治しない、再発を繰り返すといった状態が続いており、その度に鼓膜切開の必要がある場合に行われます。

鼓膜を切開し作成された穴に直径1~2mmのチューブを挿入する方法です。チューブの挿入期間は3~6ヶ月程度で自然に外れます。チューブを挿入しておく事で、空気がチューブに開いた穴から耳の中に入り、耳の中を乾燥させる事で炎症が起こりづらくなります。

耳は鼻と「耳管」と呼ばれる管で繋がっております。中耳炎等で膿が耳の中に溜まってしまってもチューブを入れておけば、耳管を通して鼻に出やすくなります。チューブを入れることで、耳内に溜まっていた分泌液が消えるため、良く聞こえるようになりますし、入れてる違和感はほとんどありません。

切開した鼓膜に小さなチューブを挿入するだけなので、手術に要する時間も数分です。ただし手術自体は非常に繊細なのでじっとしている事ができない子供への施術は、麻酔を行わなければ困難である場合があります。

鼓膜形成術(日帰り手術)

鼓膜に開いてしまった穴を塞ぎ、新しい鼓膜を再生させる手術です。耳膿が無い場合に適用でき、手術に要する時間は約30~40分程です。手術の方法として、残っている鼓膜の内側から行うアンダーレイ法、外側から行うオーバーレイ法、鼓膜の表皮層と固有層に挟むサンドイッチ法の3種類があります。

鼓室形成術(日帰り手術)

鼓室

鼓膜に穴が開いているだけでなく、耳小骨(ツチ骨・キヌタ骨・アブミ骨)等も壊れている場合に適用します。代用の軟骨等を用いて、音が伝わる状態にするのが目的で、手術に要する時間は約120~150分程と言われています。日帰り手術で対応する場合と、短期間の入院が必要になる場合もあります。



手術費用について

中耳炎の手術費用は入院日数、手術内容、麻酔の種類、症状によって人それぞれであり、紹介するのはあくまで「目安」の費用となります。
レーザー治療:10,000~12,000円
鼓膜チューブ挿入術(片側):8,000~8,500円

鼓膜穿孔閉鎖術:4,500~5,000円
鼓膜形成術:50,000~55,000円
鼓室形成術:150,000~250,000円

※費用は保険が適応された3割負担の金額です。
※「片側」と記載された項目は一側のみの治療費です。両側に治療を施す場合は費用は2倍です。
※上記の手術費用に加え、術前に行われる検査料、再診料、薬剤料等が加算されます。

まとめ

以上、中耳炎の日帰り手術と費用に関するまとめでした。
中耳炎は5歳児までの子供が発症しやすい病気ですが、大人でもストレス等が原因で発症する可能性が十分にある病気です。

昨今では手術を日帰りで行う事のできる医療機関が増えてきています。聴こえづらい・・・違和感があるという事に心当たりがある人は1度、耳鼻科・耳鼻咽喉科の医師に相談してみましょう。

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