痔瘻は穴痔とも呼ばれます。他の痔と違うところは、痔瘻の治療は、手術を行うしか方法がありません。ここでは、痔瘻の治療方法、日帰り手術、治療費用についてご説明します。
掲載内容は、専門の医師に監修していただいております。
痔瘻とは
痔の中でも一番治療が難しく、厄介な病気が痔瘻(穴痔)です。痔瘻は、前段階として、肛門周辺のくぼみなどに下痢便などの細菌が入り込み、炎症を起こして膿がたまった状態になります。それを肛門周囲膿瘍といいます。肛門周囲膿瘍の状態から炎症などを繰り返して肛門内と外側をつなぐ膿のトンネル(瘻管)ができます。これを痔瘻といいます。肛門周囲膿瘍になると、切開して膿を出す必要があります。また、膿を出して治療が完了した後も、痔瘻に悪化しないように注意する必要があります。痔瘻になると薬等で治療はできません。手術が必要になります。痔瘻は放置しておくと、膿のトンネル(瘻管)が複雑化(複数できる)し、複雑な手術が必要になったり、癌(がん)化することもありますので、早期の治療が必要です。
肛門周囲膿瘍の治療方法として
肛門周囲膿瘍になると痛みがあって、膿がたまって多くなると発熱することもあります。肛門周囲膿瘍になると、切開して膿をだす必要があります。症状がひどい(広がっている・深い)場合は、膿を出すのも大変です。また、肛門周囲膿瘍の炎症が治まった後に、痔瘻になる場合があります。肛門から膿が出たり、痛みがある場合は、できるだけ早く専門医の的確な診断・適切な治療を受けましょう。
痔瘻の手術
痔瘻の問題点は、肛門内から肛門の外まで、肛門括約筋の通ったトンネル(瘻管)ができていることです。そのため、痔瘻の手術で注意すべきポイントとなるのは、
1.痔瘻に再度菌が入らないようにすること
2.肛門括約筋をできるだけ傷をつけないように手術を選択する
3.痔瘻の膿が中にたまらず外に出て行きやすくするために痔瘻の外側の入り口を処置する
以上を踏まえて、患者様の痔瘻の症状にあわせて手術方法を選択します。痔瘻の手術は、医師の技術にも大きく関係してきます。
瘻管切開開放術
問題となる瘻管(トンネル)を肛門括約筋も含めて切開して、瘻管を露出します。傷口も約3ヶ月で治り、根治性も高く、再発率も低い治療方法ですが、肛門括約筋を切開してしまうので、切開する範囲にもよりますが、手術後、肛門の形が変わってしまったり、おならや便が漏れる(便失禁)可能性が高くなります。そのため、この手術は痔瘻が浅く、単純な瘻管(トンネル)の場合に行われる手術となっております。再発率は約1~2%と低いです。手術は日帰り手術が可能です。
くり抜き法(括約筋温存術)
痔瘻のトンネル(瘻管)を切開せずにくり抜いてしまう方法です。肛門括約筋を切開しませんので、肛門機能(手術後の便失禁)には問題がない手術法です。ただ、手術後に再度、下痢便などの菌が傷口に入ってしまうと再発する可能性があります。また、手術の難易度も高く経験が豊富な医師の治療が必要です。再発率は約15%といわれており高いです。
複雑な痔瘻に行われる手術となります。入院手術を勧められます。傷口が治癒するまでは、下痢便にならないように注意する必要があります。
シートン法
瘻管に輪ゴム(もしくは紐状の医療器具)を通して、瘻管と肛門括約筋をその輪ゴムを徐々に縛って切開する方法です。切開開放術との違いは、徐々に切開を行っていくので、瘻管と肛門括約筋がゆっくりと切れていきます。その間に最初のほうに切られた肛門括約筋の切り口の治癒が進んでいきます。つまり、切開と治癒が徐々に進んでいくので、肛門括約筋にかかる負担も少ない治療法となります。ただ、数週間にわたって、輪ゴムで縛っていきますので、違和感や締め増しした際に多少痛みを感じることがあります。手術は日帰り手術が可能ですが、治療期間は、患者様の症状にもよりますが、4~12ヶ月程度経過観察が必要となります。
上記3つが基本的な痔瘻の手術となりますが、単純な痔瘻の手術で、先に瘻管をくり抜き、瘻管を切開し、肛門括約筋も切開してしまうのですが、瘻管切除後に肛門括約筋を縫合することで、手術後の便失禁を予防しながら行う手術を実施している医療機関もあります。痔瘻切開開放術と括約筋温存術のハイブリット法のような手術です。単純な痔瘻は日帰り手術で行えますが、複雑化したものは入院が必要なケースもあります。
痔瘻の手術費用
痔瘻の手術は保険適用となっております。
痔瘻の手術は、その症状で手術の方法も変わり手術金額には多少幅があります。
単純痔瘻の場合 ・・・3割負担では約2万~4万円
複雑痔瘻の場合 ・・・3割負担では約3万円~6万円
入院が必要な場合 ・・・1泊約8,000円~1万円となります。
痔瘻の手術の保険適応
痔瘻の手術は、健康保険・国民健康保険の対象となっております。負担額は1割負担、3割負担があります。治療費は入院費を入れると、およそ約2万円~10万円となります。手術を受けたことで、月の医療費が高額になった場合は、高額療養費制度の申請を利用すると一部返金される場合があります。生命保険・傷害保険に加入されている型は、保険の契約内容によって、給付対象となる手術であれば、給付金が受け取れますので、保険の窓口で確認をしてください。
痔瘻手術の入院期間・日数
痔瘻の手術は、単純な症状は日帰り手術が可能です。手術後は、自宅で療養し、医療機関にもよりますが、通院は手術後2日以内もしくは1週間後くらいが目安になります。入院が必要な手術になった方は、約10日~14日くらいの入院となります。痔瘻はできるだけ早く症状を察知し、早急に手術治療を行うことが肝心です。
手術後の出血や膿
手術後、多少の出血はあります。また、手術内容でも説明しましたが、痔瘻に再度菌が入ってしまうと再発する可能性があります。瘻管切開開放術やシートン法の再発率は低いですが、くり抜き法(括約筋温存術)では、再発率が約15%と高いので、再発した場合は、膿が出てくるようになります。手術後は、できるだけ下痢にならないようにすることが大事です。
手術後の再発率
手術の再発率は、瘻管切開開放術やシートン法は再発率が低く約1%~2%と言われております。くり抜き法(括約筋温存術)は再発率が約15%~30%と記載されており、手術を行う医師の技術によってかなり再発率が変わってくるようです。専門の医療機関で、症例数の多い医師を選んで手術を受けられることをお勧めします。
手術後の生活や仕事
日帰り手術を受けられた場合
手術後に痛みがありますので、痛み止めと強い鎮痛剤を処方されますので、手術後の麻酔が切れてきたら、飲むようにしてください。食事は、下痢にならないように注意してください。辛いものを食べたり、冷たいものを摂り過ぎないようにするなどして下痢を予防してください。また、治療期間中は、飲酒について3週間は避けてください。また、飲みすぎは下痢の原因となりますのでご注意ください。手術後の仕事や軽い運動は痛みとの相談ですが、デスクワークであれば3日後から、運動は3週間後からにしてください。
入院手術を受けられた場合
約10日~14日間の入院となります。痛みに関しては、手術後に薬で聞かない場合は医師にご相談ください。注射(神経ブロック)による痛み止めも対応できます。食事は下痢便にならないように病院食をできるだけ食べるようにしてください。飲酒は医師から許可があるまで禁止です。退院すれば仕事に復帰していただいてかまいません。運動に関しても医師と相談して決めるようにしてください。
術後、手術痕から浸出液が出て、多少臭いがあります。ひどい異臭ではありませんが、人がかいでよい臭いがすると感じるものではないので、傷痕には、専用のパットをできるだけ交換すれば、臭いが近くの人までひろがることはないと思います。
まとめ
痔瘻は痔の疾患の中でも最もやっかいな病気です。前段階として肛門周囲膿瘍といって肛門周辺に膿がたまります。その症状が悪化して痔瘻となります。痔瘻になると手術以外に治療方法はありません。また、できるだけ悪化する前に治療することが好ましいです。放置しておくと、痔瘻が複雑化して、それに伴い手術も複雑になります。また、癌(がん)化することもあるので注意が必要です。痔瘻の手術にはポイントがあり、①瘻管(トンネル)に再度菌が入らないようにする②肛門括約筋をできるだけ切らない③瘻管(トンネル)の外側の入り口から膿が出やすくなるように処置する。
手術は患者様の症状によって、日帰り手術が可能なものと複雑化し入院施設での手術が必要な場合があります。また、痔瘻の手術は、担当する医師の記述によっても「再発率」や「術後の肛門機能に問題がないか」などに差が出るようです。専門施設で、手術経験が豊富な医師のもとで治療されることをお勧めいたします。