2017.11.10

ワキガの症状・原因・治療方法|脇の臭いを医師が徹底解説!

汗や口臭などのカラダの臭いって気になりますよね。なかなか自分では気づきにくいのもやっかいです。
でも、ワキガのように強く不快な刺激臭が出ているとなると、つねに周囲の反応に敏感になって気が休まりませんね。
今回は、専門医の監修の元、ワキガの原因と症状、治療法について説明します。

ワキガとは

ワキガとは、腋からツンとする強烈な腐臭がする症状をいいます。
腋の下(腋窩〈えきか〉といいます)にかく汗がその臭いの元となります。


大量の汗をかく人がワキガになるのかというと、そうとは言い切れません。
同じように汗をかく人であっても、ワキガになる人とならない人がいます。

遺伝的にワキガ体質というものがあって、それによってワキガの出方が異なります。

ワキガは顕性遺伝(旧:優性遺伝)します。そのため、全世界ではワキガは圧倒的多数を占めます。
しかし、日本を含む東アジア圏は例外的に少数派で、ワキガの割合は5〜20%といわれています。

日本や東アジア圏では体臭自体が薄いため、ワキガの臭いを嫌う傾向が強く、他人に不快感を与える臭いとされています。

それだけに、腋が臭うんじゃないかと神経過敏になったり、ワキガによる体臭が周囲の人たちに迷惑をかけているのではないか、嫌がられているのではないかと一人悩んだりする方も多く、それが昂じて対人恐怖症やうつ病など、精神衛生上の影響を与えることも少なくありません。


また、ワキガの症状が出ている人は大汗をかく傾向にもあります。その汗は衣服に黄色いシミをつくることもあります。

体質だから仕方がないと思って諦めている方も多いようですが、日本では腋臭症(えきしゅうしょう)という疾患として認知されています。そして、その治療法もあるということを知ってほしいと思います。

ちょっとでも気になるようであれば、医師に相談して改善させることができるのです。

ワキガの原因

ワキガの原因は汗です。ただ、不快な臭いを伴った汗が分泌されているというわけではありません。
また、すべての汗がワキガの原因となるわけではありません。


汗を分泌する汗腺は2種類あって、その一方の汗腺から出る汗がワキガの原因となっています。

汗を分泌する汗腺にはエクリン腺とアポクリン腺の2種類があります。
エクリン腺は汗腺の大部分を占めるもので、全身の皮膚に分布します。暑い時、運動した時など、身体に熱が溜まるとエクリン腺から汗が分泌されて体温調節をします。

一方のアポクリン腺は、腋の下(腋窩〈えきか〉といいます)や外陰部、肛門、乳暈、外耳道など特定の場所にしか存在しません。思春期頃から急速に発達します。アポクリン腺から分泌される汗には脂質やタンパク質など細胞由来の物質などが含まれています。これがワキガ臭の原因物質となります。

 

アポクリン腺は元々フェロモンを発散させるものでした。実際に、哺乳類などは全身にアポクリン腺を持っていて、そこから発散されるフェロモンが生理活性を促す役割を果たしています。たとえば、異性を引きつけたり、巣までの道しるべを示したり、外敵の襲来に対して警報を発したりします。

ヒトのアポクリン腺は進化の中で徐々に退化しつつあって、身体の一部に名残が残っているものだといわれています(ただ、ヒトのフェロモンも確認されていて、その機能が研究されています)

なんで臭いの?


アポクリン腺から出る汗、この排出物自体に臭いはありません。
ところが、エクリン腺からの水分と混じり合って、アポクリン腺の汗に含まれる脂質やタンパク質が腋毛や皮膚にいる常在細菌などによって分解されると、刺激臭が発生します。

ワキガの人は多汗傾向にあるといいましたが、通常の汗が多くなって湿り気が増すと細菌を増殖させる環境が形づくられるため、より臭いが強くなるようです。

 

ワキガの臭いはネギやタマネギ、クミン(香辛料)、チーズ、納豆のようだともたとえられますし、生乾きのぞうきんや、エンピツのような臭いといわれることもあります。また、同じ人でも日によって臭いに違いがあることもあります。
これは汗が分解されて生成される物質が違うことによるものです。たとえば、いわゆる汗臭さはイソ吉草酸、タマネギ臭であればメチルメルカプタン、すっぱいような臭いであれば酢酸、酪酸など、その成分の多少によって変わります。

 

ストレスや苦痛などから出る嫌な汗(脂汗)はアポクリン腺からの汗であるともいわれています。こうしたストレスやホルモンバランスの崩れなどがアポクリン腺の分泌量に増大に関連するという説もあるようです。

どうしたら臭くなくなる?

ワキガの臭いの原因はアポクリン腺からの汗と、それを分解する常在細菌です。
したがって、このどちらか、あるいは両方を除去すればいいことになります。

手軽な方法では以下のようなものが上げられます。

腋毛の処理

腋毛を処理あるいは脱毛することで汗が腋窩に溜まりにくくしたり、腋の下で細菌が増殖することを抑えたりすることで、臭いを軽減することが期待できます。

消毒・制汗剤

これらは常在細菌を殺すことで、臭いを抑えることが期待できます。
よく「デオドラント成分配合」などと表示されている製品がありますが、この「デオドラント」とは汗の分泌を抑える「制汗」作用を指す言葉ではなく、殺菌して臭いの原因を抑える「消臭」のはたらきを指します。
腋毛の処理などと併用することで効果を高めることができます。

まれに制汗剤などを使用すると、より臭いが強くなったという方もいらっしゃいます。
制汗剤の消臭成分がミックスされて不快な臭いが増幅されることもあるようです。

 

医師の処方で使用できる医療用の制汗剤もあります。
汗腺に蓋をして臭いの原因となる汗を止めることで、臭いを抑えます。

 

ここまでは手軽にできる対処法です。

ただ、頻繁に手入れをしていても、汗は常に分泌されていますので、臭いはいつの間にか発生してきます。
たとえば、部屋に入ってくるだけで臭いを感じるほど臭いレベルが重度の方の場合、こうした対処療法では限界があります。

そこで、とくに気になるケースでは医師による施術で対処することになります。

ボトックス注射

ボトックス注射は、ボツリヌス菌からつくった製剤を腋窩に注射し、一時的に汗の分泌を促す物質を抑制して、汗をかきにくくします。

ただ、こうした対処療法は長期にわたって臭いを抑える効果はありません。
また、頻繁に処置をする必要があります。比較的持続性の高いボトックス注射でも、その効果は3ヵ月〜6ヵ月程度です。
また、臭いレベルが重度の場合には、効果が期待できないこともあります。

手術による治療

もっとも根本的な解決方法は、原因となる汗を分泌するアポクリン腺を除去することです。
これは手術によって行います。

これについては「治療方法」の項で詳しく述べますが、マイクロ波や超音波によって汗腺を焼き切るものや、腋窩を切除して目視で汗腺を切除するものまでさまざまな施術方法が開発されています。

上手に処置されれば、効果は半永久的に続きます。つまり、ワキガの不快な臭いから解放されることも期待できます。

ワキガ治療をうけている人ってどんな人?

遺伝的ワキガ体質

先にも触れましたが、ワキガは遺伝的要素が強いといわれています。
遺伝でアポクリン腺の量が先天的に決まってしまうのですが、これは顕性遺伝であるために広まりやすく、人類全体では圧倒的多数の人にワキガがあることになります。
欧米人の8割がワキガ体質であるというデータもあります。したがって、そういう国では、ワキガは疾患とは認められていないところもあります。


一方、日本人ではワキガ体質の人は1割程度しかいません。ただ遺伝するため、片親がワキガの場合50%、両親ともワキガである場合には75%の確率で体質が遺伝します。

職業的ニーズから

とくに対人相手の職業の方では、相手への印象を考慮してワキガの治療を受ける方が多いようです。

たとえば営業職の場合、身だしなみがビジネスを成功させる重要な要素の一つとされています。
口臭・体臭などは避けるべき最重要項目だと考える人もいるでしょう。

ワキガは疾患の一つです。清潔を保っていたとしても、いつの間にか臭いが発散されてしまい、そして、その臭いは相手に不快感を感じさせてしまうため、治療を受けることが多いようです。


トレーナー、インストラクター、理容・美容などの接客業に従事される方も同様ですね。
また、腋が人目に触れる機会が多いモデルなどの職業の方は臭いに敏感でしょう。

女性

おしゃれに敏感で気を遣う女性にとっては臭いは大敵でしょう。
夏場などにノースリーブの服を着たり薄着になったりすることで周囲への臭いが気になる機会が多いためか、やはり女性からの相談が多い傾向にあるようです。

汗臭、多汗、汗染みなどに思春期頃から長年悩んでいたという方も多いようです。

臭いがコンプレックスとなったり、誰にも相談できずに悩み続けてたりして引っ込み思案になってしまうことも少なくありません。ファッション面でも、汗を隠しやすかったり、臭いが拡散しにくい服を選んだりと、思いっきり好きな服を着ることができないなど、さまざまな制約を受けているようです。

他人から指摘されて

ところで、臭いの好悪というのは非常に曖昧なものでもあります。
誰もが不快に思う臭いというものもありますが、多くの人が不快だと思う臭いであってもそれを好む人、とくに気にならない人がいたりします。


また、ワキガのあるなしにかかわらず、多くの人は自分の臭いには鈍感になっています。
常日頃から同じ臭いを嗅いでいることで嗅覚が順応しているからです。

生活を共にしているパートナーや親兄弟などがあなたの体臭に慣れてしまっていて、さほど気にならなくなっているというケースもあるでしょう。
こういうケースでは、他人から「ちょっとニオイが……」などと指摘されてはじめて、周囲に臭いをまき散らしていたんだと気づくこともあります。


お子さんの腋の臭いが気になるような場合、放っておくと学校でのいじめに遭うリスクも否定できません。
その結果、不登校になったり精神的負担を抱え込んでしまったりして、成長に支障をきたす場合もあります。
手術はともかく、早めに医療機関に相談することをお薦めします。

過去のワキガ治療で効果がなかった方

ワキガ手術で汗腺を除去したにもかかわらず、臭いや多汗が治らないという方もいらっしゃいます。
原因はアポクリン腺やエクリン腺をきれいに取り切っていない場合がほとんどで、再手術のために治療を受ける方もいます。

多汗症との違い

ワキガと併せて語られることが多いものに「多汗症」があります。
これはエクリン腺からの汗が、体温調節の範囲を超えて大量に分泌される疾患です。
その量は日常生活に支障をきたすケースもあります。


エクリン腺は全身に分布していますので、全身で大量の汗をかくケースがある一方、部分的に汗をかくケースがあります。汗をかきやすい体質やホルモンバランス、精神的要因、食生活などの影響で、交感神経の機能が失調してうまく働かなくなることが原因だと考えられています。

 

全身性の多汗症では、気温や湿度が高い場合、激しい運動の後、病気で熱が出たような場合に一時的に見られるケースと、慢性的に多量の汗をかくケースがあります。

一方、部分的に見られる多汗症もあります。精神的な緊張状態やストレスが加わった場合に、手のひらや足の裏、顔面や腋の下に大量の汗をかくケースです。

多汗症の場合、ほとんどが水分からできている無味無臭の汗ですので、ワキガのような臭いはしません。それでも激しい運動をした後など「汗臭い」と感じる程度には臭いを発することがあります。

厚生労働省の労働科学研究班の研究では、日本では7人に1人が多汗症だというデータがあります。
汗をかくことへの不安感から余計に悪化してしまう……そんな症状に苦慮している方がかなりたくさんいるのです。「耐えがたい苦痛を感じている」という方が約80万人もいるそうです。

自己臭恐怖症

体臭は、気になりはじめると常に気にしていないと心配でならなくなります。
とくに症状はないにもかかわらず、臭いで他人に迷惑をかけているのではないか、人に嫌われているのではないか、笑われているのではないかといった不安に常に苛まれている状態になることがあります。これを自己臭恐怖症といいます。ひどい場合には、対人恐怖症やうつ病にまでつながることがあります。

 

実際には、臭いも、臭いの原因となる原因もないわけですから、原因は精神的な妄想です。
うまくいかないことはすべて自分の体臭のせいだと考えてみたり、他人と交わることに恐怖を覚えるようになります。

 

ワキガ、多汗症は疾患として治療の対象になりますので、臭いや多汗の原因があります。簡単なセルフチェックで疾患である可能性を確かめることができます(そうでないかもしれないことも確かめられるということですね)。

ワキガ 多汗症
  • 両親のどちらかがワキガである
  • 腋毛が多くて太い
  • 耳垢が湿っている
  • 汗染みが黄色くなる
  • 他人から腋の臭いを指摘されたことがある
  • 暑くないのに下着が濡れるほど汗をかく
  • 常に手が汗ばんでいる
  • パソコン操作でキーボードが濡れる
  • 服の汗染みがひどく目立つ
  • 電車のつり革が汗で濡れる

治療方法

先に対処療法については触れましたが、ワキガの根本治療は手術による汗腺の除去以外にありません。
いくつかの術式がありますので、医師とよく相談の上、最適の治療を選んでください。

剪除法(せんじょほう)

汗腺の除去は、皮膚を切開して目視でアポクリン汗腺を切り取っていく剪除法が広く行われています。
腋の下を2〜4cmほど切開し、アポクリン腺を取り除きます。汗の量が多いような場合にはエクリン腺、また皮脂腺なども取り除きます。

効果は90%以上といわれています。
他の施術に比べて効果が高いことがメリットですが、一方で傷跡が大きくなるのがデメリットといえます。

施術時間は2時間程度。術後48〜72時間は患部をプロテクターなどで固定します。
痛みや腫れなどによって仕事や学校などに制限が必要となるダウンタイムはほぼ1週間程度です。

吸引法

0.5〜1cm程度の切開創から専用のシェービング機器を入れて汗腺を削り取ります。
シェービング機は高速回転する刃がついていて、これで汗腺を刈り取り、吸引器などで吸引して除去します。切開創が小さいく目視で確認ができないため、汗腺がどの程度取れたかは皮膚の厚みから判断します。
そのため取り残すリスクも否定できません。

効果は60%程度で、比較的軽度・中度の症状に向いています。
30〜40分ほどの施術で終わり、傷跡が目立ちにくいのがメリットです。
患部は24時間ほど固定されますが、ダウンタイム自体は1〜3日で済むのもメリットです。

 

レーザーを使った新しい吸引法ベイザーシェービングを行っている医療機関もあります。
ベイザーとは36kHzという特殊な超音波振動を出す機器で、血管や神経などを傷つけることなく汗腺だけを焼き切ることができます。切開創は1cmほどですみ、焼き切った汗腺を吸引して除去します。

施術時間は40分。効果は90%以上と、剪除法に劣らないものがあります。
患部は48時間ほど固定され、ダウンタイムは3〜4日ほどです。

ミラドライ

切らない施術の代表がミラドライです。
ミラドライとは皮膚の上から汗腺が集中する部分にマイクロ波を照射する医療機器で、マイクロ波の熱で汗腺を破壊します。

最大のメリットは傷跡をつくらないということです。また、効果は半永久的です。
局所麻酔を使い施術時間は1時間程度。麻酔プラス皮膚を冷却しながら施術しますので、痛みはほとんど感じません。
ダウンタイムも1〜2日です。

保険で治療できる?

ワキガの治療に、健康保険は適用できるのでしょうか。
まずは医療機関が保険診療を扱っていることが第一条件になります。
美容外科の一部では、保険診療を行っていないところもあります。
健康保険診療を望むのであれば、まずはここを確認してください。


ボトックス注射は、多汗症で日常生活に支障をきたしているようなケースでは健康保険が使えるケースもあります。しかしワキガには適用されません。

ワキガ手術の場合は保険がきく?

剪除法では健康保険適用のケースが多いようです。
ただ、医療機関によって、剪除法であっても自由診療で行っているところも多数あります。
レーザーなどの最新機器を使った治療は自由診療であることが多いようです。

いずれにしても、ホームページなどで情報を得た上で、直接医療機関に問い合わせ、さまざまな術式について医師からきちんと説明を受けた上で治療を開始してください。

傷跡はのこる?

切開をする施術では、どうしても傷跡は残ります。
剪除法での切開がもっとも大きく4cm程度になりますが、いずれも腋窩のしわに沿って切開されますので、さほど目立つことはありません。

ただ、個人差があることも事実です。
7、8割の人が1、2年後に見た目でほとんど分からないくらいになりますが、体質や、術後の感染症、色素の沈着などによって、まれに傷跡が目立ってしまうこともあるようです。

おわりに

ワキガの症状・原因・治療法についてまとめました。
ワキガの臭いは気になり始めると精神的にも人間関係的にも悪影響を及ぼすことがあります。
制汗剤や消毒などの対処療法で改善しないような場合には、まずは専門医に相談して適切な処置の相談をしてみましょう。保険適用の手術によって完治することも期待できますので、安心して専門医を訪れてみましょう。