2017.05.11

目の中のガン、眼内リンパ腫って?医師が教える症状・原因・治療方法について

この記事の監修ドクター

監修ドクター
オガタ眼科クリニック
緒方 譲二 医師

福岡県福岡市中央区天神2丁目2-12T&Jビル3階

0120-280-964

http://www.ortho-k.jp/

詳しく見る

全身のリンパ系組織に発生するがんを「リンパ腫」といいます。「悪性リンパ腫」と呼ばれることもありいます。このうち、眼球内に発生するものを眼内リンパ腫といいます。硝子体に炎症性の細胞が浮遊してかすみ目や飛蚊症などを起こすぶどう膜炎と症状が非常に似ているため、鑑別が難しい病気です。
今回は、専門医の監修の元、眼内リンパ腫の症状、原因、治療法について説明します。


眼内リンパ腫とは

眼内リンパ腫は近年増加傾向にある病気で、60歳以上の高齢者に多く見られます。びまん性大型B細胞リンパ腫によるもので、中枢神経系リンパ腫に近いものとされています。発症する箇所によって以下の4つのタイプに分けられます。

1.眼内と中枢神経系のリンパ腫
2.眼内のみのリンパ腫
3.眼内と眼以外の臓器のリンパ腫
4.眼内と中枢神経系と眼以外の臓器のリンパ腫

この中では1.の眼内と中枢神経系のリンパ腫がもっとも多く、6割を占めています。
眼の症状が出る前から中枢神経系あるいは全身にリンパ腫が出ているケースでは、眼内リンパ腫を容易に診断できます。2.の眼内のみのリンパ腫のケースは非常に診断が難しいとされています。

仮面症候群

「仮面症候群」という言葉があります。他の病気と症状や所見が紛らわしい病気を表していう言葉です。眼内リンパ腫はその典型的な病気で、症状や所見がぶどう膜炎と類似していて紛らわしいために、診断の確定に時間がかかる病気です。ぶどう膜炎という診断で治療を進めているうちに、本来の眼内リンパ腫だと判明するのに1年以上経過してしまう例もあります。

ぶどう膜炎は眼の中で起こる炎症の総称です。透明な眼の前房や硝子体に炎症性の細胞が入り込み、そのために視力低下、かすみ目、飛蚊症、まぶしさ、充血、目の痛みなどを感じます。
眼内リンパ腫では硝子体の混濁が見られるケースと、眼底に症状が現れるケース、両方が現れるケースがあります。とくに硝子体の混濁が主体のケースでは、リンパ腫細胞が硝子体に入り込んで硝子体が混濁し、視力低下やかすみ目、飛蚊症などを呈します。症状はほぼぶどう膜炎と同じです。

ぶどう膜炎との鑑別が難しい理由

ぶどう膜炎の治療には消炎効果のある副腎皮質ステロイドの点眼や内服を行います。リンパ腫細胞はこの副腎皮質ステロイドに反応しないため、薬によって改善しない場合には眼内リンパ腫が疑われます。ところが、眼内リンパ腫であっても炎症細胞が混在していることがあって、ステロイド治療に多少の反応があるケースがあり、その鑑別が非常に困難になっています。

最終的には硝子体を切除して眼内細胞を採取し、細胞診、遺伝子検査などをして診断を確定する必要があります。一方、硝子体混濁がない眼底症状のみに病変があるケースでも、診断を確定するためには硝子体手術を行って網膜下の組織を採取する必要があります。
ただ、ぶどう膜炎の場合には、硝子体混濁があるとはいえ薬による治療が主であり、硝子体手術をすることはまずありません。眼内リンパ腫の診断目的で硝子体手術をすることが適当かどうか、難しい判断が必要になります。


中枢神経系への影響も監視

眼内リンパ腫の発生頻度がそれほど高くないことも診断が難しい一因となっていますが、悪性の腫瘍(がん)ですので、眼内リンパ腫は中枢神経系リンパ腫を生じて神経症状を引き起こすことも多くあります。診断時に眼症状のみで中枢神経系にリンパ腫がない場合でも、3割はその後中枢神経系にリンパ種を生じ、重篤な状態になることもあります。したがって眼の治療だけでなく、中枢神経系への影響についても常に監視しておく必要があります。数か月ごとに造影剤を用いたMRI検査や血液の検査が必要になります。

眼内リンパ腫の症状

硝子体主体に症状が出るケースでは、硝子体の周辺部に向かって放射状に広がる索状の混濁が見られることがあります。元来透明な硝子体にこのような混濁が現れるために視力の低下、かすみ目、飛蚊症、まぶしさ、目の痛み、充血などの自覚症状を感じます。飛蚊症は視野の中を濃い影が蚊のように動き回る症状です。
眼底主体に症状が出るケースでは、網膜の下に腫瘍の塊ができ、小さな黄白色の病巣として見られます。これが次第に広がっていきます。褐色の色素が見られることがあります。視力の中心である黄斑が障害されたり、視神経が侵されるようになると、著しい視力低下を生じます。

このような自覚症状は片眼に現れることも両眼に現れることもあり、交互に現れることもあります。徐々に悪化したり、改善と悪化を繰り返す場合もありますが、長期に症状が続くことが一般的です。
眼内リンパ腫は、眼の症状が先行している場合でも中枢神経系への転移が早いため、早急な治療が望まれます。

眼内リンパ腫の原因

眼内リンパ腫の原因は、今のところ分かっていません。眼球内も中枢神経系もリンパ節を持っていないにもかかわらず、なぜ悪性リンパ腫が生じるのかも不明です。
結膜や眼窩、涙腺などにも悪性リンパ腫は生じますが、これらの多くはMALTリンパ腫といって粘膜とリンパ細胞の複合組織で、眼内リンパ腫(びまん性大型B細胞リンパ腫)とは異なります。MALTリンパ腫は、眼内リンパ腫ほど悪性度は高くなく予後も良好です。

眼内リンパ腫では、全身性の悪性リンパ腫が眼内に転移してくるものと、眼内で生じる原発性のものがあります。原発性のものの場合、中枢神経系にも同時に生じていることがあり、先行して眼に症状が現れる場合と、中枢神経系に先行して症状が現れる場合があります。


眼内リンパ腫の治療方法

眼内リンパ腫の診断確定

硝子体に混濁がある場合、硝子体手術で硝子体を切除し、病理検査を行って眼内リンパ腫の診断を確定します。眼底に病変がある場合も硝子体手術で硝子体を切除し、網膜下の組織を採取して病理検査を行って、眼内リンパ腫の診断を確定します。
硝子体は透明なゼリー状の組織で、硝子体手術では白目に3箇所ほどの穴を開け、そこから器具を入れて硝子体を切除します。手術によって硝子体を切除した後は水、ガス、シリコンオイルなどに置き換えます。硝子体混濁があった場合には硝子体がなくなりますので、視力は回復します。

眼内リンパ腫が明らかな場合で視力の維持が必要な場合には、抗がん剤、放射線、レーザー照射などを組み合わせて眼球を温存する治療を行うこともあります。

診断確定後は、眼の病変に対する治療と、中枢神経系または全身の病変に対するケアの両面から治療を考える必要があります。

眼の病変への治療

放射線の照射と代謝拮抗薬の注射の2つの治療方法があります。
放射線照射は2週間ほど連日照射を続けます。皮膚炎、角膜障害、白内障、放射線網膜症などの副作用が出る場合があります。
代謝拮抗薬にはメトトレキサートという薬を用います。最初は週に1、2回、その後は月に1回のペースで半年から1年間注射を続けます。注射の伴う眼内炎などの感染症リスク、場合によっては重篤な角膜障害を起こすリスクがあります。

眼以外へのケア

中枢神経系へのケアが重要です。
中枢神経系の病変を調べるにはCT(コンピュータ断層撮影)検査やMRI(磁気共鳴画像撮影)検査を併用します。病変が疑わしい場合には、脳神経外科、血液内科、神経内科などと連携します。
中枢神経系リンパ腫に対しては、代謝拮抗薬メトトレキサートを投与した後に脳全体に放射線照射をします。次第に予後は向上していますが、それでも再発や死亡に至るケースは依然として高いと言わざるを得ません。

まとめ

眼内の「がん」である眼内リンパ腫はごく稀な病気ですが、ありふれたぶどう膜炎の陰に隠れて進行し、中枢神経系にダメージを与える恐ろしい病気です。初期の症状も比較的穏やかで、視力の低下やかすみ眼などです。万が一のこともありますので、急に視力が悪くなったときなどは迷わず眼科を受診しましょう。


この記事の監修ドクター

監修ドクター
オガタ眼科クリニック
緒方 譲二 医師

福岡県福岡市中央区天神2丁目2-12T&Jビル3階

0120-280-964

http://www.ortho-k.jp/

詳しく見る